私の好きな人 インタビュー 河野智美さん ギタリスト 6本の弦から紡ぎ出される豊かな世界観

河野智美 クラシックギター

Photo by 丹沢由棋

私の好きな人 番外編 インタビュー クラシックギター 演奏家 河野智美さん

先日、私の好きな人というテーマで、クラシックギターの演奏家の河野智美さんについて書きました。
この文章を書いたことがキッカケとなり、河野智美さんにインタビューすることが出来ました。
場所は弊社の南青山店です。

90分のインタビューでお聞きした内容はとても多く、Wordのファイルで70ページから80ページの分量になりました。

全てを掲載すると長すぎるので、その中から印象に残ったフレーズをピックアップして、今回の記事に掲載いたします。

クラシックギターをご存じない方には難しく、クラシックギターの専門家の方には簡単な内容かもしれません。この辺の事は大目に見ていただけたら幸いです。

IZURU 石川祐吉

この文章に登場する方々 順不同

河野智美さん

横尾幸弘さん

高田元太郎さん

福田進一さん

フランク・ザッパ

Frederic Hand

音楽、クラシックギターとの出会いについて。

― 音楽との出会いについて教えてください。

河野 4歳からピアノを習い、7歳からクラシックギターも始めました。母が趣味でやっていたので家にギターがあり、私が7歳くらいになったときにギターで遊んでいたんですよ。楽器が好きだったんですよね、小さい頃から。そうしたら、家族で「習うかな?」という話になって、横尾幸弘(よこおゆきひろ)先生に習うことになりました。

― 【さくら変奏曲】の横尾先生ですね。ピアノも並行して続けてたんですか。

河野 はい、むしろピアノのほうが好きだったので、ピアノのほうがメインで。本当はピアノで音大に行きたかったんですよ。なので悩んだりもしたんですけど、高校に入ってからもピアノを一所懸命やっていましたが、ピアノの先生に音大は薦めないと言われて。

― なんでだろう。だって、どちらもセンスがあったと思うんですけれども。

河野 いえ、そんなことないです。ピアノの世界って本当にすさまじいんです。ピアノの先生は「音大に行っても、東京藝術大学以外だったらそんなに意味がないよ」という考えでした。先生は声楽家でしたが、芸大の楽理科で博士号を取った方でした。「私立の音大は学費も高いし、それだったら普通の大学に行って、音楽はそのまま趣味として続けたほうがいい」という考えの先生だったんですよ。

― 厳しい意見ですが、ちゃんと真剣に生徒の将来を考えてくれているということですね。

河野 厳しいですし、すごく苦労もされている方だったので音楽の道は薦めない、という感じでした。それで趣味で続けるにしても、ピアノかギターかどちらか一つの楽器に絞ろうと思って、ギターを選びました。ピアノはすでにある程度たくさん曲も弾けてしまっていて、ギターの難しさを感じているところでした。これから先まで続けるのに、クラシックギターの方が追究していく奥深さや可能性がすごくある楽器だなと思っていました。

アマチュアからプロの演奏家になるまでの道のり

― 本格的にギターにのめり込んだのは、18歳~19歳くらいの頃ですか。

河野 そうですね。大学に入ってからも国内コンクールにちょこちょこ出たりしていて、それからですね。コンクールで落ちたら悔しいので真剣に挑戦するようになりました。でも、なかなか上手くいかなくて…入賞はできるんですけど、なかなか上位には入れなくて、それでもうちょっと一生懸命にやらないとな、とは思っていたんです。ですがその時はやっぱり普通に就職しようと思っていて、就職しました。それで、就職してからもコンクールに出続けていました。

河野 20代でコンクールで優勝して、これでちょっとはプロとしてやっていけるのかな、と思えたのがそのときでした。私はずっと別の仕事と並行して演奏の仕事をしていましたが、良い出会いもあり、【白い軌跡】を出しました。【白い軌跡】では本当は弦楽カルテットとギターとか、そういう類のアルバムにしたかったらしいですけど、クラシックギターが面白いというのに気がついて、ソロアルバムに変更になったんですよね。

― 【白い軌跡】から少し時間が経ってから、【祈り】が発売されました。

河野 【白い軌跡】を出した後に、ちょっと病気とかしたりして、あまり目立った活動ができていなかった時期もありました。その間に少しゆっくりといろいろな音楽に触れ、自分の実力も耳も結構熟成されてきて、今だったら国際コンクールを受けても上位に行けるかな、という時期があったんですよね。そのときに、高田元太郎先生に見てくださいとお願いしました。それで東京国際ギターコンクールや海外のコンクールに挑戦して入賞できたので、それからちゃんと活動を始めました。本格的に活動を再開してから数年が過ぎてレパートリーもしっかりできてきたので、それをCDにしようと思ったんですよね。それが【祈り】です。

― なんて表現したらいいのだろう。特に【祈り】なんかはとても精神性が高くて。河野さんのCDを聞いたときに、“硬派だな”と思ったんです。

河野 【祈り】はバッハなど重厚なレパートリーを入れたいと思っていて…カヴァティーナなどは柔らかい雰囲気でアルバムを包んでくれていますが、プロデューサーの強い提案で入れてみたんです。やっぱりカヴァティーナとか入っているとギターの良さがいっそう感じられて、あとから私もとても良いなと感じました。

― 河野さんの大聖堂を聞いたときにも、何て言ったらいいのかな。バランスがすごくいいというか。調和しているというか。例えば、もっとゴリ押しの大聖堂とかも結構あったりするじゃないですか。

河野 バリバリの。

― 同じ大聖堂でも、ゴリ押しの大聖堂に比べると、こう空から降ってくるっていうんじゃないですけど、良い意味で広がっているというかですね。そういうのをすごい感じて。エゴをあまり感じない、清々しい演奏だったんですね。

河野 うまいことおっしゃってくださってますよね。曲に捧げるって(笑)。

音楽を追求する日々、仕事の経験を通じて自身の音楽に没頭できるようになって。

― 先ほど、20代の頃、耳や演奏が充実してきたと聞きました。子供の頃から習っていた先生に習い続けてきて、だんだん上達してきたということでしょうか。

河野 いえ。

― もう習うのをやめて、ご自身で追及してなさっていて。

河野 もちろん子どもの頃からの積み重ねはありますが、習うのを止めて少しブランクがあったときに、より客観的に音楽に触れることができ、自分のなかで音楽を聴く耳が開けた時期があったんです。それで国際的なコンクールにまた出たいなと思えてきました。昔、国際コンクールにちょっと出ていたんですけど、全体のレベルを見てあまりにも自分が太刀打ちできないと思っていました。それで諦めたわけじゃないですけど、コンクールに出るのをやめた時期がありました。でもちょうど【白い軌跡】でワンステップ経験を積んで、また挑戦したいと思えてきて。

― 私自身も仕事をしていて壁を感じるというか。行けるのかな行けないのかな、と考えるときがあります。そういうときは、どういうふう乗り越えているのでしょうか。プロの演奏家を目指している人でも、どこかで、やっぱり自分はダメかもしれないとか、自分は行けるかもな、とすごく揺れていると思うんですよね。

河野 私の場合、やっぱり若いときはそういうのがありましたね。これは人によるのかもしれません。若いときは本当に自信がなくて、何かあるとすぐに落ち込んじゃったりとかしてダメだなと、ずっと思ってきたんですけど。

河野 やはり仕事の経験をいろいろ積んでいくうちに精神的にも成長しますし、全くそういうのを気にしている余裕もなくなるんですね。目の前の仕事を一所懸命にやるというスタンスに変わっていってからは、他人のことが気にならなくなりました。歳を重ねたせいもありますが、自分のことで精いっぱいというのもあります(笑)。あとはですね、大きいのは人を育てるようになって変わりました。

河野 生徒さんを結構持つようになったりとかすると、やっぱり生徒さんからも逆に刺激されたりするところもあるし、自分も成長している部分もあります。教えてもらっているというか、お互いに刺激して何か関わっていく中で、成長できてきたんだな、というのは感じます。

― いいお話ですね。

河野さんが教える際に気をつけていること

― 河野さんの生徒で、初心者の方っていらっしゃいますか。

河野 はい。特に音楽教室では初心者のほうが多いですよ。基礎から教えます。

― 私ももう一度勉強し直したいくらいです。

河野 そうですか(笑)

― 教えるときに大事にしていることとかって何ですか。やっぱり初心者の方だったら、本当に基礎の基礎だから癖もついてないですし、教えやすいと思うんですけど、伸び悩んでいる人とかも来たりすると思うんですよね。

河野 人によりますね。本当にその人が今、趣味でやっているか、プロを目指しているのかにもよります。今、直近でコンクールを目指しているとしたら、その対策をしないといけないので、細かい部分を直すのは後回しになったりとかはしますよね。その人の課題によりますが、気になるところはその都度教えます。でもギターが難しいのは、急にフォームを直したりすると他が崩れたりするんです。変えることが難しい部分もあるので、この人は今この時点で上手くいっているから将来的に直したら良いことと、いま直すべきことを見極めて、伝える順序も考えていかないといけないので、その辺が難しいですね。人によって教え方は変えます。

― 全体で最適化されているのかもしれませんね。だから、一つを変えてしまうと、その良さを失ってしまったりとか、そういうこともあるのかもしれませんね。

河野 そうですね。例えば、弾き方を直してあげたいと思っていても、難しい曲をコンクールで弾かないといけないので、そこを直すとうまく演奏できないこともあります。そこを直したときに難しいスケールがうまくいかなくなったりすると、またちょっと大変になるので。うまくいっている部分はそのままでいいんじゃないか、と私は思うんですね。無理に直さなくても。後々、時間のあるときに直していけばいいということと、すぐに直したほうがいいということと、両方あります。

時代とともに、コンクールの重視するポイントが少しずつ変化していること。

― 今、コンクールの上位の演奏家を見ていると、すごいですよね。“天下一武道会”のようだというか。みなさんレベルが高くて。

河野 今の時代は情報も得やすくなってきているので、クラシックギターという奏法の世界もすごく成熟・熟成してきています。成熟してきて、本当に効率的で良いフォームが確立されて浸透してきています。

― 全体的なレベルが上がってきているので、些細なミスがコンクールでは命取りになるのでしょうか。

河野 いえ。昔はコンクールで演奏する若い人といったら、もうバリバリに弾ける感じの人が多かったと思うんですね。音楽ということよりも技術ですよね。弾くことが、もう本当に優先されていて、割とそういう人が目立っていた時代もあって。もちろん、その時代にも音楽をやっている人もたくさんいました。

河野 逆に成熟してきているので、今はどちらかというと若い人でも音楽をやるという感じの人が増えています。ギターを正確に弾くということが、もう大前提にあって。昔は上手く弾ければ、すごく素晴らしという感じだったんですけど、今はうまく弾けて当然で、上手く演奏していないと、コンクールでも上位には行けません。反対に、音楽をしている演奏家が多いのでちょっとのミスは気にならないですよね。音楽をしてない演奏家がバリバリ弾いているだけだと、少しミスしたら気になってしまうんですけど。

― 正確だけを追い求めてしまうと、ほんのちょっとしたミスが目立ってしまうということですね。だから、音楽的に演奏することが、小さなミスを包むクッションのような役割をしているということですね。

河野 そうですね、はい。

良い音を出すために大事なこと、耳を鍛える。

― この前、Twitterで福田進一先生がフォームじゃなくて自分の耳で音を決めるべきだみたいなことを、ツイートされていらっしゃったみたいなことがあって。音の繋がりで言うと、フランク・ザッパというギタリストが。

河野 フランク・ザッパ?

― はい。フランク・ザッパという。あの、スティーブ・ヴァイというギタリストがいるんですけども。それでスティーブ・ヴァイという人のお師匠さんがフランク・ザッパになるんですが。今、スティーブ・ヴァイは世界的に有名なギタリストなんですけれど、昔、良い機材を持っていても、お師匠さんのフランク・ザッパから「最悪な音だ」みたいなことを言われて。それで、スティーブ・ヴァイは「なんでだよ。オレはこんなにいい機材を使ってるんだから、音が悪いわけないじゃないか」と反論したらしいのですが、その際にフランク・ザッパがスティーブ・ヴァイに言ったのは、「音というのはオマエの機材の中にあるんじゃなくてオマエのアタマの中にあるんだ」ということを言ったらしくて。スティーブ・ヴァイはそれをずっと心に刻みこんでいる、と何かのインタビューで書いてありました。やはり、一流の演奏家は言うことが似ているのかなと感じました。

河野 ニュアンスは同じですよね

― はい。そういうようなことを聞いて、ある一定のラインを超える演奏家になると、みんなそういう領域に入ってくるんだろうなあと。

河野 そうですね。私は教えている際に思うことですが、初心者とかレベルに関係なく耳がいい人は、ニュアンスを細かく伝えなくてもすぐ良い音を出す感覚を掴んでくれるんですよ。フォームとかタッチとか、良い音を出すための爪の角度とか爪の形とか、いろいろあるんですけど、結局、そういうことを教えても最終的に耳が良くなければ、というか、色々な音楽を聴いて自分が良い音というのを知って、出したい音のイメージがなければ、本当に良い音は出せないわけなんですよね。

河野 やはり良い音を知っている人というのは、すぐに出せますね。少し教えると、すぐイメージが持てるんです。私が「こうやるんだよ」と言って、実際に弾いて音も聴かせるじゃないですか。そうすると、耳の良い生徒はすぐにイメージを掴んでその音を出そうとするので。

― もちろんフォームも真似ているんだけれども、それを基に延長線上にある音を出そうとしているから、ということですね。

河野 生徒にはその音を出そうとして欲しいんですよね。それを伝えるのは本当に難しくて。毎回、出せるようになるまで私も教えるんですけど、なかなか難しくて。だけど、耳が良い人はその音を出そうとするので、フォームを云々いうよりもすぐに出来るんです。もちろんフォームも大事で徹底的に教えますが、最終的に音楽はやはり耳が大事ですね。

― 今でも耳を鍛えることはありますか?

河野 鍛えるという目的では本当に何もしていません。私、今まで鍛えたことはないですけど、楽器が本当に好きなんです。初めて渡された楽器でも良い音を出すにはどうしたらいいんだろう、と自分で探って考えますよね。そういった姿勢でずっと育ってきているので、色々な音楽を聴いたりしているうちに、音の出し方とか分かってきたかなと感じています。

色々な楽器を演奏してきたことが、ギターを演奏する上で役に立っている。

― 中学校では吹奏楽部、高校ではオーケストラの部活動をやっていたそうですね。

河野 そうです。中学生のときはフルートをやってたんです。

― フルートを。すごい。本当に色々な楽器が出来ますね。

河野 まぁ部活動のレベルでの話ですが…フルートをそのときやっていて、それでフルートをもうちょっと真剣にやろうと思って、高校の部活ではオーケストラに入って。そうしたら、すごい盛んな部活だったんです。100人いるオーケストラでした。フルートパートをやりたいなって思っていたら、ジャンケンに負けて、コントラバスになったんですよ。

― ああ、そのほうがいいかも。

河野 そうなんですよ。それがいまとても役立ってるんですよ。高校での2年間、ブラームスやドヴォルザーク、チャイコフスキーのシンフォニーで、みっちりコントラバスのパートをやったんです。そのときにすごく色々なシンフォニーも聴いて勉強して、オーケストラを聴いても低音パートがすごく聴こえるようになりました。

河野 ギターって、一人で全部やらないといけないじゃないですか。コントラバスのおかげで、低音パートがすごく聴こえる演奏が出来るようになったんですよ。高校生の頃、耳が育ちました。ギターはオーケストラだとよく言われますが、オーケストラを学んだことで、一つの曲でも全てのパートを注意深くスコアを読んだりとか、オーケストレーションの勉強をすることが出来ました。

河野 クラシックギターでは全部を一人で表現する際に、色々な音のイメージが出しやすくなりますね。「ここはオーケストラだったら、こういう部分だな」とか。

― 羨ましいですね。私はそんな風に楽譜を読むことが出来ません。だからかな。河野さんの演奏を聴いていて、“ダンゴ”になってないんですよね。ちゃんと分離しているというか。

河野 でも、昔はやっぱり下手な演奏しかできなくて。イメージと自分の技術が噛み合っていないと、やっぱり良い演奏ってできないと思います。技術を磨きながら、だんだん表現できるようになってきたのかなと。まだまだですけど。

ギタリストであることを、きちんと仕事として考える。

― 今、クラシックギターの業界って、上手くて若手で強い人がひしめき合っていると感じます。テクニックもみんな勉強するし、情報を共有し合うから、違いを出すのが難しくなってくる。そんな中で、河野さん自身が考える、河野さんと他のギタリスト違いって、ご自身ではどのような部分だと考えていますか?

河野 色々と経験したので、その分、何か積み重ねたものがあるかもしれません。あと、やはり女性なので。ギターは圧倒的に男性が多い世界なので、女性ならではの、繊細な表現とか温かい表現など、なんとなく出来ているのかなと。回答に困りますね(笑)

河野 それと、私はずっとその道一筋ではなくプロになろうと思ったのが遅かったので、その分色々な人と会って特異な経験をしているという部分がちょっとは役に立っているかな、という意識はあります。

河野 音楽の世界だけで一本道でやってきた人に、絶対的な尊敬と憧れはあります。それと違うから私はすごく良かった、という意味ではありません。ただ、生まれ変わっても、私は一本道では来ないかもしれないですね(笑)

― 子どもの頃から様々な分野に好奇心が旺盛だったんですか。

河野 そうですかね。やっぱり一度きりの人生なので。親が普通のサラリーマンで、普通の企業で仕事をしてみたいという気持ちがすごく強かったんですよ。一度、そういう経験をして社会の仕組みというものを勉強したいというのがあって。それが最初からプロの道に踏み込めなかった理由でもあるんですけど。

河野 やっぱり、若いときにそういう経験をしたいと思ったんですよね。それで、就職活動も普通に経験しておきたいと思ったんです。案の定、毎日泣いてすごく辛い活動だったんですけど、色々な企業を回ったおかげで、何かがすごく見えてきたというか。社会はやっぱりすごく厳しいんだな、というのは身にしみて分かりました。

河野 私はあまりに天真爛漫で自由に生きてきたので、自省して本能的に求めたのかもしれません。音楽から逸れた道は、当時の私には必要な経験でした。ギタリストになれるという環境や音楽を続けられるということが、どんなに幸せなことなのかというのもよく分かります。普通だったら、そんなこと選べないですよね。余裕がないと選んでいられない(笑)

河野 そういうことも大前提として知っていないといけないと思ったし、それを分かった上で、これからは音楽一つでやっていきたいと考えるようになりました。音楽の世界に戻ってからは、やっぱり音楽が好きだな、戻ってきて良かったな、と感じました。

― いい話ですね。この話は、みんなに通じることだと思います。河野さんとメールのやり取りをしていたとき、他の方よりもレスポンスが早いなと感じました。クラシックの方ってマジメなのかな。私、ロックとか弾き語りとか、様々なジャンルのミュージシャンと付き合いがあるので。みんな返信が遅いんですよね。(笑)

河野 (笑) 高田先生はもっと早いですよ。私は場合によって違います。

― 高田先生は早いですね(笑)

河野 高田先生も、張り付いているんじゃないかっていうくらい早いですね。

― この辺のことはプロになることで大事なことなので話しておきたいな、と思うんですけれども。やっぱり総務の能力って大事ですよね。段取りを組んだり、手配する能力というか。

河野 そうですね。もちろん、実力があることが一番なんですけど、それだけじゃなくて、私はコミュニケーションの能力とか、色々な仕事をこなすことが出来る人が残っているんじゃないかとは薄々感じます。

― この話はすごく大事だと思います。この前、立川談志のメモリアルのドラマをやってました。嵐の二宮さんが主演で、立川談春さんという人の話なのかな。立川談志が談春さんを1年か2年、築地に働きに行かせるんですよね。談志は何も説明しないんですけど、有無を言わさず仕事をやらせたらしいんですよ。最初、談春さんは腐ったようですが、落語の世界に帰ってきたときに、仕事を通じて培ってきた物がいかに役に立っていたか、というストーリーでした。

― だから、河野さんも企業で働いてきたから、それが今に活きているのかなと。弊社のお客様はピアニストやバイオリニストなどの音楽家の方が多くて。お客様自身もおっしゃっていたのですが、音楽だけをやっていると世間に疎くなってしまって、感覚がズレてしまうとご自身で感じていると話していました。だから、「良い演奏家になる」と「仕事として成り立たせる」の二つは、やはり両輪だと思います。

河野 人によって様々な場合があると思いますが、やはり両方がちゃんと出来ている人が、トップで活躍しているとは感じます。でもそれは企業で働いたからということでもなくて、教養や意識も関係していると思いますし、何をしている人でもできる人はできると思います。

クラシックギター、愛器について。

― 松と杉、クラシックギターの表面板はどちらがお好きですか。

河野 場合によるんですよね。場所を選ばず、どんな環境でも音がバーンと出てくれるのが杉なので。アンサンブルのときや海外公演とか、どんな場所か不安なときは今井勇一さんの杉を持っていくと、大体は大丈夫なんですね。

― どこでも良いパフォーマンスができるんですね。

河野 松って、杉に比べると繊細で。本当に透明感のある音が出ていいんですけど。場所によっては全然音が飛ばなかったりとか、湿気が多いと本当に音が萎えちゃったりするので。

― 私は松ばかりなので、よく分かります。今日は疲れているなという日は杉のほうが楽じゃありませんか。

河野 あります。ちょっと不安な曲のときは杉にしたりとか。

― 杉は音を出すのが楽ですよね。私は松が好きで、メインのクラシックギターは二本ともベアクローです。両方とも禰寝孝次郎さんが製作した楽器です。高田先生の杉の今井勇一さんのボロボロになるまで弾き込まれたギターをご存知ですか。今は高田先生の娘さんが弾いているのかな。

河野 あのギターはまだ誰にも貸してないんじゃないですかね。

― あれ、最初のレッスンに行ったときに渡されて、弾いたのですが、高田先生の癖が隅々まで付いていて全く弾けなかったです。あの楽器は記憶に残っています。

河野 すごいですよね。高田先生が弾くからですけど、あの楽器は神がかり的な音が出てましたよね。

― 話は変わって、今、河野さんはフランスの方が製作した楽器を使っていますよね。

河野 はい。ウーゴと言います。英語読みだとヒューゴですかね・・。フランスのH、U、G、Oと書いてHUGO(ウーゴ)と。

― あの楽器は表面板は松かな。

河野 松ですね。横裏はブラジリアン・ローズウッドではなく、インディアン・ローズウッドかな。

― ギターを選ぶ際、どういう点を基準で選んでいるのですか。

河野 ウーゴが製作したギターを使っているフローリアン・ラルースという若いギタリストがいるんですけど、その人の演奏がすごく好きで。

― 私もナクソスで聞きました。素晴らしい演奏家ですね。

河野 それでフローリアン・ラルースと製作家のウーゴにアメリカで会ったんですけど、フランス人同士だからか仲が良くて、いつも一緒にいたんですよ。それで話を聞いて、ギターも弾かせてもらったりして、価格を聞いたらそんなに高くないというか、クラシックギターの中ではお手頃だったので、じゃあ買おうかなという流れで注文しました。今のところ、私はそういう出会いで決めてますね。

― 音がどうこうではなく、運命を感じる出会いというか。今井勇一さんのとフランスのウーゴのギターでは何か違いはありますか。

河野 国ではなく人によると思います。フランスのウーゴは40歳で若い製作家です。伝統的な優しい音色を残しつつ、とても分離がよく遠達性もあります。私は中の構造のことは分からないのですが、かなり研究していて、バランスが本当に良いです。遠達性のある音を追求して、なおかつ歌うように作っていると思います。

― なるほど。「祈り」はキム・ヒホンさんさんのギターを使って、「リュクス」はフランス人のウーゴで録音しているということですね。

河野 はい、そうです。

― エンジニアやレコーディングの環境も違うかもしれないですけど、比べてみると印象が違う音ですね。

河野 そうですね、違うと思います。レコーディングの音はプロデューサー、エンジニアと一緒に作り上げますが、アルバムの方向性によっても変えたりします。「リュクス」のときは特に私はこだわって音決めに時間をかけました。少し時間をかけすぎましたが、プロデューサーもエンジニアも辛抱強く付き合ってくださって…本当に感謝しています。「祈り」が本当に良い音だったので、それ以上のものを作りたかったのです。

― 「リュクス」のジャケットの表紙になっているのが、ウーゴのギターですね。やっぱりフランス人ってオシャレですよね。ヘッドも美しい。

河野 モダンな感じですよね。無駄なものがなくて。

― 今、何本くらいクラシックギターをお持ちでしょうか。

河野 今はウーゴとキム・ヒホン、今井勇一さんをメインに使っています。前はスペインのギターなども使っていました。ただ、私はまだいわゆる銘器と言われるクラスのギターを持ったことがないので、やっぱりちょっと欲しいな、とは考えています。まだ手が出ませんが…

― 狙っているところはどういうところですか。ハウザー、フレタとかいろいろありますけど。

河野 そのクラスは私には手が出ませんが、やっぱりスペイン系など良いですね。

― アルカーヘン、合ってる?アルカヘン、合ってるかな。

河野 アルカンヘル(笑)

― ごめんなさい。私、少しずつ間違って覚えていますね(笑)。お恥ずかしい。

河野 スペインのクラシックギターはいいですね。スペインの曲をもっと掘り下げてやりたいなという気持ちもあって。スペインのギターに憧れてたりして、ロマニリョスとかに憧れたりするんですけど。ただ、今、持っている楽器もそれに引けを取らないくらい良い音は出ていると感じています。よく楽器店でのコンサートのときに、いろいろ試奏させていただくんですが、ドイツのシュテファン・シュレンパーの楽器も本当に魅力的でした。

― 河野さんはエレキギターは弾かないんですか。

河野 弾かないですね。弾こうとしたこともありますけど、持った時点で、もう諦めました。(笑)

― 重いから。

河野 重たくて(笑)。これは持って立てないなと思って。

― スティーヴ・ライヒのエレクトロニック・カウンターポイントなんかは、たまにクラシックギタリストでもやられる方いらっしゃいますけど。

河野 それこそ高田先生が大好きな分野じゃないですか。

― そうでしたか。当時は大学生だから知りませんでした。今度、お目にかかった際にお話ししたいと思います(笑)。

レパートリーに対する考えや、新作の「リュクス」に収められた楽曲について。

― 最近はクラシックといってもキャッチーな曲を収録した作品が多いと思います。今後、河野さんはどのようなレパートリーを拡げたいとお考えでしょうか。

河野 時代や作曲家を決めて突き詰めるか、バランス良くテーマを広げるか、いつも迷います。

― プログラムを組むとき、やっぱり観客が盛り上がるように曲や順番をかなり考えるんですか。それとも、自分の追い求めているようなものをメインにして、あまり盛り上がりとかは考えないのでしょうか。

河野 本当に選んでいる段階では、自分がトライしたい曲とか、ずっと弾いていきたい曲とか、自分の感性に合うものが選択の基準になります。やはり自分が感動できないと良い演奏は出来ないので、それを基準に選んでいます。ただCDでもコンサートでもお客様が何を聴きたいか、自分の感性の範囲ですが、演出は必ず考えて盛り込みます。

― 例えば、ピアノを弾く人は“ショパンがいい”とか“リストがいい”とか相性があると聞いたことがあります。指が馴染むという感覚でしょうか。河野さんはギターを弾いていて馴染むなと感じる作曲家はいますか。

河野 最近出した「リュクス」の中に入れたジャズ系の曲で使われるジャズコードは、やっぱりギターに馴染んでいると思うんですよね。意外と弾きやすいんですよ。難しいには難しいんですけど、変な弾きにくさではないですね。音楽の流れが素直というか。複雑なことをやっていそうで、実際は素直な流れだったりするので、演奏は弾きやすかったりはします。

― 分かりました。それでは、このまま「リュクス」の話もお聞きします。CDを制作する際、最初に軸となるような曲を選んで、その後にレパートリーを増やしていく流れで構成を形にする流れなのですか。

河野 そうですね。今回の場合、軸になる曲がハンドとボグダノヴィチでした。この2つをメインに、ジャズの要素が入ったアルバムを作ってみたいなという考えがあったので、それを軸に選曲しました。ハンドはすごく素敵な演奏をする人だと思います。

― ジャズヴォーカルを習っていたと聞きましたが、そこで得た物を取り入れたりしましたか。

河野 取り入れるというか、ジャズは一時期によく聴いたおかげで歌のイメージがしやすいので、音楽に入り込めます。ハンドの「トリロジー」という曲もジャズの要素がたくさん出てくるんですけど、ここはこういう風にカッコよくやりたいというイメージは、要所要所で確実に持ってますね。ただ、イメージの通りに出来ているかどうかは、分からないですけど(笑)

― いや、出来ていると思います。「第三楽章」なんか、すごくカッコいいですよね。タラタラタラタ、タラタラタ・・・♪って(笑)

河野 カッコいいですよね(笑)

― すごくカッコいいですよね。でも、この作品を機に「ハンド」の曲を弾く人も増えてくるのではないでしょうか。誰かがキッカケとなって急に演奏する人が増えることがありますよね。

河野 どうですかね。今は分からないです。あまり手に入りやすい譜面ではなく、輸入した物なので。

― それでは、今のところ現代ギターで販売されていないんですね。

河野 していないかもしれません。

― そのうち販売するかもしれませんね。私なんかも、好きな曲を見つけた場合は、ダウンロードして買ったりしています。

河野 そうですね。ハンドさんも、今、自分の作品を全てサイトからダウンロード販売ができるようにと体制を整えようとしているところですし。URLを教えていただいたんですけど、今のところ「プレイヤー」(祈り)しか載ってなくて(笑)

https://modernworksmusicpublishing.com/store/fred-hand

― 「リュクス」の最後の曲ですね。

河野 はい。そうです。

― 最近、車の中で「リュクス」をよくかけているんですよ。

河野 そうですか。ありがとうございます。

― はい。クルマの中で。河野さんの演奏を体に染み込ませようと思って、ずっとCDを聴いていました。新たにCDを作るのは2年に1枚くらいのペースですよね。さっき、お聞きしたように今は全国で教えたりとか、演奏活動をしてらっしゃるからレパートリーを増やすにも時間が必要ですもんね。

河野 そうですね。今、そこが悩みどころで。もっと早く色々と出来ればいいんですけど。福田先生のペースを見ているとスゴイと思います(笑)。

― 確かに、すごい仕事の量ですよね。

河野 よく分からないです、どんな風に過ごされているのか。相当な努力はされていると思います。本当に超人的ですね。私はあんな風にはとても出来ないので、マイペースに少し熟成されてからCDを出すという感じにしたいと考えています。

― フランスのコンクールで優勝した渡辺範彦さん。あの方はレパートリーはすごく少なかったって、何かの文章で読んで。限られたレパートリーを極限まで煮詰めるみたいなことが書かれていました。

河野 そうですね。色々なスタイルの人がいますね。本当におもしろい世界です。

― 長い時間、ありがとうございました。そろそろ、インタビューを終わりにしたいと思います。音楽の素人の私に付き合っていただいて、とても嬉しかったです。お話して河野さんがとても知的な女性ということが分かりました。このようなインタビューを通じて良い仕事をしている人と繋がっていきたいと考えています。機会がありましたら、弊社が企画してコンサートを催してもいいかもしれません。今後とも、よろしくお願いいたします。

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